FAQ4 WoCBA-RA患者さんに、
産婦人科医はどのようなカウンセリングを行うべきか?
- 患者さんの希望に基づいた妊娠計画を話し合う。
- RAの疾患活動性が寛解・低疾患活動性に達するまでは、避妊が大切であることを教育する。
カウンセリングの目的
疾患活動性や薬物療法の状況など、必要な情報をリウマチ治療医と共有したうえで家族計画について話し合う1)。妊娠の希望がある場合は、RA治療薬の進歩により、適切な治療を受けることで安全な妊娠が可能であることを伝え、患者さんに安心してもらうことが大切になる。一方、自己判断で服薬を中断したり、妊娠時に本来服薬してはならない薬剤を服用してしまう場合もあることから、適切な教育により、このような事態を回避する。すぐに妊娠を希望していない場合は、特に計画外の(偶発的な)妊娠の可能性を考慮し、避妊の重要性を啓発する。
妊娠希望がある場合のカウンセリング
妊娠に向けて、使用可能な薬剤のもと疾患活動性をコントロールするとともに、生活習慣を整えるように指導する。一般女性と同様に、肥満・高血圧・糖尿病などの併存疾患は妊娠帰結に悪影響を与えることを伝え、適正体重を保つ、喫煙・飲酒を控える、バランスの取れた食生活の確立や適度の運動(150分/週程度)などの指導を行う。また、胎児神経管閉鎖不全のリスク低減のために、葉酸の摂取を推奨する2)。
パートナーやその家族にも病気についての正確な情報を提供し,患者さんが孤立しないように努めることも重要である。
加齢の妊娠への影響
一般に女性の年齢が40歳を超えると、妊孕力は20~25歳時に比し0.2まで下がるので、不妊治療の成功率も低下する(図1)3, 4)。したがって、RA患者さんが妊娠を希望する場合は、年齢などの患者背景を踏まえて、患者さんの将来的なライフプランを話し合い、患者さん自身に妊娠・出産について考えてもらうことが望ましい。
「RAが子どもに遺伝するか」と聞かれた場合
RAの発症には遺伝要因が関与しているものの、父母のRAが必ず子どもに遺伝するということではなく、遺伝的な要因がなくてもRAを発症する。そのため、喫煙、歯周病、ウィルス感染、腸内環境などの出生後の環境要因がかかわっていると考えられている5)。
したがって、RAが子どもに与える影響については、子どもの発症リスクが、一般と比較して若干高い傾向があるものの、過度な心配は不要で、それよりも周囲の喫煙や感染症などに注意するように説明する5)。
図1 生殖補助医療における
年齢と妊娠率の関係
生殖補助医療における妊娠の確率は35歳から下降し、40代では半分以下に低下することから、年齢を踏まえたライフプランを考えることが大切になる。
日本産婦人科学会 ARTデータブック 2020
https://www.jsog.or.jp/modules/committee/index.php?content_id=12
避妊カウンセリング
経口避妊薬(OC)子宮内避妊器具(IUD)は、可逆的避妊法のなかで比較的効果が高く、しかも安全性に優れた方法である。一方でコンドームは、日本で最も普及している避妊法であるが、感染症予防効果は高いものの避妊効果は低いことから、RA患者さんに対しては、より確実な経口避妊薬などを推奨する(図2)。また、近年は、梅毒感染者の急増などがあり、性感染症の予防も重要であることから、コンドームを併用したデュアルプロテクトが効果的であることも伝える。
緊急避妊薬(モーニングアフターピル or アフターピル)は、コンドームが破れたなどで避妊できていたか心配な場合に、性交後72時間以内に内服することで妊娠を防ぐ効果があることを説明する。なお、2019年11月より厚生労働省が認めた医療機関において例外的に、緊急避妊薬の処方については、初診からオンライン診療を行うことが可能となった。
図2 主な避妊方法とその有効性
- *100 人の女性が各避妊方法を1年間行ったにもかかわらず,予期せぬ妊娠を経験する頻度。
金子佳代子:Hospitalist 2021;9:115-131より改変
計画外の(偶発的な)妊娠について
計画外の(偶発的な)妊娠を認めた場合、服用している薬剤によっては先天異常のリスクが増加することから、リウマチ治療医は産婦人科医と状況を共有したうえで、母体と胎児のリスクを評価し、それらのリスクを患者さんに対して情報提供する。
妊娠中使用禁忌の薬剤を服用中に妊娠が判明した場合は、直ちにその薬剤の投与を中止する。過去の報告では、特定の抗リウマチ薬服用中に妊娠が判明し、直後に中止した場合は、流産の頻度は高いものの、生まれてきた児の催奇形性は、服用していない場合と比べて3~4%の上昇にとどまり、80.9%は健康児の出産であったとされている6)。そのため、安易な人工妊娠中絶の選択は避け、患者さんに対しこれらの情報を提供したうえで患者さんの判断を支援する。
JAK阻害薬服用時に妊娠に気づき中止した例での催奇形性リスクは報告されていないため、同様の対応を行う。
妊娠中使用禁忌の薬剤服用下で妊娠し、妊娠を継続する場合、産科医はエコーで構造的異常をフォローし、患者さんに情報を提供する。
なお、服用中の薬剤と妊娠の関係について心配がある場合は、妊娠と薬情報センター*に相談することが可能であることを患者さんに紹介する。全国にある拠点病院での専門の医師・薬剤師による相談を受けており、情報の提供や判断の支援を行っている。
- 1)Briggs AM et al: BMJ Open 2016;6:e012139
- 2)宮川英子、村島温子:臨床婦人科産科 2021;75:1200-1205
- 3)Menken J et al: Science 1986;233:13891394
- 4)O'Connor et al:Maturitas 1998; 30:127-136
- 5)メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド(https://www.ryumachi-jp.com/medical-staff/life-stage-guide/)
- 6)Weber-Schoendorfer C et al: Arthritis Rheum 2014; 65:1101-1110
FAQ5 WoCBA-RA患者さんに、
産婦人科医はどのようなアセスメントを行うべきか?
- 過去の妊活歴・妊娠歴に加えて、子宮頸がんのスクリーニングを実施することを推奨する。
過去の妊娠の経緯
過去の妊活歴・妊娠歴に加えて、過去の妊娠関連の合併症(妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全)や流産の回数(流産時のおおよその妊娠年齢を含む)は、次の妊娠に影響を与える可能性があるため1)それらを確認する。また、月経の状況を確認し、月経周期が不規則であれば無排卵性周期などを疑う。
2回以上の流産・死産歴があれば、不育症の精査として、子宮奇形や抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome:APS)などの疾患を疑う2, 3)。妊娠10週以降の流・死産や妊娠34週未満に発症した妊娠高血圧腎症が1回以上あれば抗リン脂質抗体の検査を行うことを推奨する。
月経状況の確認
月経の状況を確認し、月経周期が不規則であれば無排卵性周期などを疑う。その他、必要に応じて月経随伴症状、子宮形態、子宮筋腫、腺筋症、卵巣嚢腫の有無などを確認する。
子宮頸がんのスクリーニング
HPVワクチンの接種は、子宮頸部異形成だけでなく、子宮頸がんの発症を抑制することが明らかにされている4-7)。 一方、日本は特殊な社会的状況にあり、HPVワクチンの接種が中止されたことから、子宮頸がんのリスクが高い状況にある。2009年にHPVワクチン接種が承認されてから2013年までの日本の接種率は約70%であったが、政府がワクチンの積極的な推奨の中止を発表し、接種率が1%未満に低下したため、1997年~2005年生まれの20代女性では接種率が極めて低い8, 9)。また、ワクチン導入前の1993年以前に生まれた30歳代女性もほとんどがワクチン未接種者である10)。なお、日本では2022年4月より再推奨が進められている。
したがって、産婦人科がコンサルトを受けた時点で、妊娠の希望の有無にかかわらず子宮頸がんのスクリーニングを実施することが求められる。1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女性がキャッチアップ接種の対象となるので、公費補助があることを情報提供する。
その他、定期的な乳がん検診の受診も推奨する。
予防接種・感染症の確認
風疹の既往歴や予防接種歴を確認し、抗体価が陰性の場合はワクチン接種を勧める。ワクチン接種は本人に加え、パートナーへの接種も大切であることを伝える。風疹ワクチンの助成については各市町村に確認する。なお、メトトレキサート、ステロイド、生物学的製剤投与下では生ワクチンは接種できないため、ワクチン接種を勧める場合は、服用しているリウマチ治療薬について確認が必要となる。また、症状がある場合などは、必要に応じて性感染症の検査を行う。
その他のチェック項目については、「プレコンセプションケア・チェックリスト」(表)を参照する。
表 プレコンセプションケア・チェックリスト
- 妊娠について主治医、家族と相談する
RAの状態が妊娠可能な状態であるか確認。妊娠に向けた薬剤調整を行う - RA の治療内容,薬剤を把握しておく
- 主治医から妊娠許可が出ていない場合は確実な避妊を行う避妊方法を確認する
- かかりつけの産婦人科医を見つける
- 子宮がん検診、乳がん検診を定期的に受診する
- 風疹の既往歴や予防接種歴を確認する
- 感染症に注意する:風疹・B 型肝炎・性感染症(梅毒など)
- 生活習慣の改善
- 適正体重(BMI:18.5~24程度)を保つ
- バランスの取れた食生活、運動習慣を心がける
- 禁煙する
- アルコールは適量を心掛け、妊娠成立後は中止する
- 食事やサプリメントから葉酸を積極的に摂取する
- 歯のケア(歯周病など)を行う
- ストレスをためない
メディカルスタッフのためのライフステージに応じた
関節リウマチ患者支援ガイド より
https://www.ryumachi-jp.com/medical-staff/life-stage-guide/
- 1)Briggs AM et al: BMJ Open 2016;6:e012139
- 2)Dimitriadis E et al: Nat Rev Dis Primers 2020;6:98
- 3)Morita K et al: J Obstet Gynaecol Res 2019;45:1997-2006
- 4)Arbyn M et al:Lancet Global Health 2020; 8: e191 - e203
- 5)Brisson M et al: Lancet 2020;395:575-590
- 6)Falcaro M et al:Lancet 2021; 398:2084-2092
- 7)Bonjour M et al: Lancet Public Health 2021;6: e510 - e521
- 8)Yagi A et al: Lancet Reg Health West Pac 2021;18:100327
- 9)Simms KT et al: Lancet Public Health 2020; 5:e223-e234
- 10)Nakagawa S et al: Cancer Sci 2020; 111:2156-2162
JP-N-DA-RH-2200109