WoCBA 関節リウマチ患者におけるSDM
(Shared decision making)
医療者と患者さんが情報を共有しながら意思決定を目指すSDMが注目されています。関節リウマチでも日々の診療の中でSDMが求められており、患者さん自身に将来について考えていただく必要があります。治療の目標を明確にすることで、将来に向けた治療への一歩となることが期待できます。
治療目標の設定と治療満足度
公益社団法人 日本リウマチ友の会の20歳以上の会員を対象に行ったアンケートによると、主治医と関節リウマチ治療の目標について 「話し合ったことがある」と回答した患者さん(38.9%)は、「話し合ったことも説明を受けたこともない(24.8%)」 と回答した患者さんに比べて、現在受けている医療に満足している見込みが6倍以上高いことがわかりました(未調整OR = 6.19、調整OR = 7.13)(表1)1)。また、「話し合ったことがある」と回答した患者さんのほうが「説明を受けたことがある」と回答した患者さんより、満足している患者さんの割合が高いという結果でした。以上より、医師からの一方的な説明だけでなく、双方向の話し合い(協働意思決定)をすることが患者さんの満足につながる可能性が考えられます。
表1 「医療への満足度」の関連要因(公益社団法人 日本リウマチ友の会)
- 調査概要
- 2019年9月1日~20日に公益社団法人 日本リウマチ友の会の会員1,600人(無作為抽出)に調査票を発送し、自記式アンケート調査を実施した。回答の得られた1,156人を解析対象とし、医療への満足度の100点満点中81点以上を従属変数、「主治医とリウマチの治療目標について話し合ったこと」の有無、現在のリウマチの具合(PtGA)、1年前と比べたリウマチの症状、罹病期間を独立変数、年齢、性別を調整因子として、ロジスティック回帰分析を用いて分析した。
- 一般社団法人 日本リウマチ学会 編:関節リウマチ診療ガイドライン2020. p184, 東京, 診断と治療社, 2021, より改変
関節リウマチ治療における患者教育・協働的意思決定(SDM)※
医師と患者さんで協働意思決定を行うにあたっては、患者さん自身がセルフマネジメント力を身につける必要があります。EULARは2015年に炎症性関節炎患者に対する患者教育について2つの基本的な考え方と8つの推奨事項を発表しました(表)2)。ここでは、患者教育は「医療者と患者が双方向で行うべきであること」、「患者自身が病気と付き合いながら生活を自己管理できるように支援すること」を目的としており、これを実現するために医療者と患者の十分なコミュニケーションならびに協働意思決定が必要不可欠であることが示されています。
理想的なSDMの実現には、看護師や理学療法士などを含めた医療者の教育や、教育資材の作成などが伴い、財源や制度上の裏付けも求められます。日本では、まだ現況把握や実践に向けた障害に関する評価が行われている段階ですが3)、日々の診療の中で少しずつでも充実を図っていくことが重要と考えられます。
表 炎症性関節炎患者に対する患者教育についてのEULARリコメンデーション
房間美恵ほか.: 臨床リウマチ 2019; 31:181-187.
※SDM
(Shared decision making)とは4)
患者さんと医療者の対話型コミュニケーションとして、世界的にSDMが注目されています。SDMは、医療者と患者さんが情報を共有しながら意思決定をすることを目指すもので、9つのステップが提案されています。
- 〈SDMの9ステップ〉
- 1 意思決定の必要性を認識する
- 2 意思決定の過程において、対等なパートナーであることを認識する
- 3 可能なすべての選択肢を同等のものとして述べる
- 4 選択肢のメリット・デメリットの情報を交換する
- 5 理解と期待を吟味する
- 6 希望・意向を特定する
- 7 選択肢と合意に向けて話し合う
- 8 意思決定を共有する
- 9 共有した意思決定のアウトカムを評価する時期を相談する
将来計画チェックシート
協働意思決定のためには、患者さん自身に将来について考えていただく必要があります。関節リウマチの患者さんは、今の痛みや生活上の障害への対応で精いっぱいで、将来に関しては具体的に考えられない場合も多いと思われます。そのような状況において、チェックシートで患者さん個々のライフイベントを提示し、治療の目標(いつまでに、どの程度改善したいか)を明確にすることで、将来に向けた治療への一歩となることを期待します。
監修:国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 主任副センター長/妊娠と薬情報センター センター長
村島 温子先生
- 1)一般社団法人 日本リウマチ学会 編:関節リウマチ診療ガイドライン2020. p182-187, 東京, 診断と治療社, 2020
- 2)房間美恵ほか.: 臨床リウマチ 2019; 31:181-187.
- 3)一般社団法人 日本リウマチ学会 編:関節リウマチ診療ガイドライン2020. p188-190, 東京, 診断と治療社, 2020
- 4)中山健夫.:薬局2018; 69(5):15-19.
JP-N-CZ-RA-2100127